2025年春、参政党・神谷宗幣代表の発言をめぐって大きな波紋が広がった。発端となったのは、落合氏との対談形式で行われたインタビューの一部が切り抜かれ、SNS「X」で拡散されたことだった。投稿は「神谷代表が【日本は移民の国だから、現在4%の移民を10%まで受け入れる】と発言した。完全な手のひら返しだ」と断じるもので、動画付きで一気に拡散。支持者の間に動揺が広がり、反対派やアンチにとっては格好の攻撃材料となった。
問題は、この切り抜きだけを視聴すると、確かに「移民を積極的に受け入れる」との印象を与える点にあった。参政党はこれまで移民政策に慎重な立場をとってきただけに、「代表自らが方針を転換したのか」との誤解を招いたのである。しかし、実際のインタビュー全編を見るとニュアンスはまったく異なる。神谷氏は「日本は縄文時代から見れば移民国家だ」と歴史的背景を踏まえつつも、「急激に移民を増やせば文化衝突が起きる」と指摘。現状の外国人比率は約4%であり、ヨーロッパ諸国の20%台に比べれば低いと説明し、「上限として10%程度、できればもっと少ない方が望ましい」と慎重な姿勢を示していた。つまり「段階的に受け入れざるを得ない現実」を語ったに過ぎず、「移民推進」とは本質的に異なる内容だったのだ。
それでも、SNSで拡散された短い切り抜きは、参政党支持者の間に深刻な混乱を招いた。「裏切られた」との声が上がる一方で、アンチ層は「やはり参政党は偽装保守だ」と攻撃。神谷氏はその後、自らの発言を「5%程度が望ましい」とX上で訂正した。政治家が世論を受けて柔軟に修正する姿勢は、ある種の現実主義と評価できるが、同時に「発言がぶれる」と批判の的になる危うさも伴う。
今回の問題で最も問題視すべきは、悪意ある切り抜きと、その情報を確認せずに拡散する行為である。投稿者は参政党支持者の混乱を意図的に誘発し、アンチ層にとって「最高のおもちゃ」として利用できる構図を作り上げた。さらに、一部の著名人までが事実確認を怠り、切り抜きに基づく批判を行ったことで、誤情報の影響は一層拡大した。SNSの拡散力が「誤解を意図的に増幅する装置」となった典型例だといえる。
私自身の推測ではあるが、こうした行為の背景には「優越感」に浸りたい心理が潜んでいるように見える。他者の失点を誇張して拡散することで、自分が賢い立場にいるかのように錯覚できる。その快感こそが、誤情報拡散の動機となっているのではないだろうか。
政党の理念や政策に賛否があるのは当然であり、支持する政党も人それぞれで構わない。しかし、切り抜きや誤解を招く情報を武器に相手を貶める風潮は、健全な民主主義を蝕む。対立陣営を攻撃するのではなく、「あの政党にも利点はあるが、自分たちにはこうした優先課題がある」と建設的に競い合う姿勢こそ求められる。誤解や分断を煽るのではなく、相互に切磋琢磨しながらより良い政策を模索する文化を築くことが、国益にもつながるだろう。
結局のところ、今回の騒動は「情報をどう受け取り、どう発信するか」というリテラシーの問題でもある。政治家の一言一句を正確に理解する努力を怠れば、民主主義は安易なレッテル貼りに堕してしまう。誤情報に踊らされるのではなく、一次情報に触れて自ら判断する姿勢が、今の日本社会には何よりも必要なのだ。