国土交通省が突然打ち出した「マンションのオートロックを配達員が共通の鍵で開けられるようにする」という方針は、あまりにも危険で、常軌を逸しているとしか言いようがありません。便利さや効率化の名の下に、住民の安全を犠牲にする発想が行政から出てくること自体、制度疲労の末期症状といえます。背景には、公明党が国交省を長年にわたって握ってきた政治的な影響があると考える人も少なくありません。
まず、オートロックはマンションに暮らす住民を守る最後の防波堤です。外部の人間が自由に出入りできないからこそ、住民は安心して生活できるのです。そこに「共通解錠システム」を導入し、宅配業者に突破を許すというのは、考えれば考えるほど正気とは思えません。しかも、対象はヤマトや佐川といった大手宅配業者に限られるわけではなく、AmazonフレックスやUber Eatsといった、ほぼスマホからの登録だけで始められるギグワークの配達員にまで広がる可能性があります。これでは「マンション=誰でも出入り自由な無防備な空間」と化す未来が容易に想像できるでしょう。
国交省の説明は「再配達削減」と「物流業界の人手不足対策」です。しかし、この課題は既存の仕組みで十分に解決可能です。宅配ボックスや置き配専用システムの普及こそが本筋であり、実際に愛知県の日本宅配システム株式会社が開発した「置き配システム」は、国交省自身の「再配達率削減緊急対策事業」に採択されています。この仕組みにはヤマト運輸・佐川急便・日本郵便といった大手三社が賛同し、住友不動産や長谷工コーポレーションといった大手デベロッパーも協力しています。既に有効性が示されている手段があるにもかかわらず、なぜより危険な「共通解錠」を進めようとするのか。そこに利権の影を疑わざるを得ません。
疑念をさらに深めるのが、韓国企業「WATT」の存在です。同社は日本市場への自動配送ロボットの導入を進めており、すでに千葉県浦安市の大規模マンションでヤマト運輸と共同実験を実施しています。彼らのロボットはエレベーターの操作まで可能ですが、最大の参入障壁はオートロックやエントランスの制約でした。そんな中で国交省が「共通解錠システム」を推進しようとしているのです。あまりにもタイミングが良すぎると言わざるを得ず、裏で話がついていると考えるのが自然ではないでしょうか。
この仕組みは、泥棒やストーカーにとってはまさに宝の山です。現実に宅配業者を装った強盗事件は全国各地で発生しており、警察庁の統計でも宅配を口実とした侵入犯罪は毎年報告されています。その状況で「合法的に鍵を開けられる仕組み」を与えれば、犯罪件数が跳ね上がるのは必至です。そして万一事件が発生しても、国交省が責任を取ることはないでしょう。結局は「自己責任」で切り捨てられる未来しか見えてきません。
国交省は現在、実証実験を通じて制度設計を固めようとしています。思い出されるのは、東京五輪施設や道路事業で繰り返された企業と国の癒着構造です。公共事業を隠れ蓑にした利権の再分配が、再びこの国で繰り返されようとしているのではないか。公明党が主導してきた国交省には、海外企業や特定利権への過度な配慮がたびたび指摘されてきました。今回の件も同じ構図に見えてなりません。
本来ならば、配送ボックスの普及や置き配制度の拡充など、安全を確保しながら効率化を図る方法はいくらでもあります。それを無視して「便利さ」を口実に住民の安全を削る方向に進む理由など存在しません。この政策が導入されれば、マンションの居住者は常に不安を抱えながら生活せざるを得なくなり、安心のために導入されてきたオートロックの意味そのものが崩壊します。
この政策は住民の安全を壊す愚策です。国交省は今すぐ撤回し、真に必要な施策――宅配ボックスの普及、置き配の法整備、物流現場の待遇改善――にこそ注力すべきです。安全を犠牲にした利権政策を進める余地は、今の日本にはありません。