SNS上で「東京都が外国人に豪華マンションを無償提供している」という情報が拡散し、大きな議論を呼びました。著名人による拡散も重なったため、瞬く間に広がり、真偽をめぐって炎上状態となりました。後に判明したところによると、この情報は「外国人による家事支援事業に関する住宅確保」と「外国人向けサービスアパートメント整備支援」の話が混ざり合った結果生じた誤解でした。
事実を整理すると、東京都が実施しているのは、外国人ビジネスパーソンや駐在員が日本で住居を確保しやすくするための施策です。具体的には、民間事業者が整備する「外国人向け中長期滞在施設」の普及を後押しするもので、その対象の一つが森ビルが運営する「麻布台ヒルズレジデンスB」です。この施設は家具・家電が揃い、Wi-Fi完備、英語での契約対応など、外国人がスムーズに契約できるサービスアパートメントの形態を取っています。
東京都の公式資料では「民間賃貸住宅」「サービスアパートメント」という表現が用いられており、これは日本の法律上、賃料を伴う契約を意味します。さらに、東京都住宅政策本部は「賃貸住宅標準契約書」を参照するよう案内しており、賃料や敷金・礼金が前提であることは明らかです。不動産仲介サイトを確認すれば、1LDKで月額65万円前後、広めの部屋では100万円を超える賃料が明記されており、相応に高額な物件であることも裏付けられます。東京都の施策は事業者に対する税制優遇措置であり、入居者への家賃補助や無償提供は一切示されていません。公式資料に「有償」と明記されていないため誤解を招きましたが、実態としては有償である可能性が極めて高いといえるでしょう。
では、なぜ「無償提供」という誤解が広まったのでしょうか。その背景には大きく三つの要因が考えられます。第一に、ニュース見出しの曖昧さです。「東京都が外国人向け住宅を整備」という表現が、「東京都が住宅を提供する=無料で渡す」と短絡的に理解されてしまいました。第二に、SNS特有の拡散構造です。センセーショナルな言葉がキャッチコピーとなり、記事本文を確認せずに拡散されるケースが相次ぎました。第三に、東京都側の説明不足です。「有償」「家賃は自己負担」と明記されていなかったため、誤解を払拭する情報が広がらなかったのです。
今回の「無償提供」という主張は結果的にデマでしたが、別の視点では東京都の施策が「外国人を積極的に呼び込む政策」であることは事実です。長期滞在を前提とする外国人経営者や駐在員を増やすことは、結果としてそのまま定住につながったり、子どもが生まれることで事実上の移民増加に結びつく可能性があります。外国人富裕層を呼び込み、外国人雇用を広げる意図が背景にあると見られ、もし外国人を増やす意図がなければ、そもそも行わないような施策であるのは確かです。少なくとも日本人の生活を直接的に支援する政策ではなく、日本人にとっての利益は「海外の富裕層が日本で消費を行い、経済に寄与する」程度にとどまるでしょう。しかも運営企業が外資系であれば、その利益が日本に十分還元されるかどうかも疑問が残ります。
こうした背景から、今回の炎上は「デマが広がった」という単純な話にとどまりません。むしろ、都政が進める施策の本質や、説明の不十分さに対する市民の不信感が噴出したとも言えます。普段から行政や政治家が、自分たちに都合の悪い情報を「デマ」と断じてきたことが、今回「本当にデマなのか」と疑われ、逆に拡散が止まらなかった一因になった可能性もあります。
結局のところ最も大切なのは、発信者が誰であっても情報を鵜呑みにしない姿勢です。信頼している人物や団体の発信であっても、一歩引いて「これは事実か?」「一次情報はどこか?」と確認する習慣が必要です。誤情報を発信しないことはもちろん重要ですが、同時に受け手側も、少し疑う姿勢を持つことが求められます。今回の一件は、私たち自身が情報リテラシーを高めるべきだという教訓を突き付けたといえるでしょう。