天下り疑惑。元警視総監が役職就任で浮き彫り「LUUPと癒着」の闇

公明党

電動キックボードシェア事業を展開するLUUPは、ここ数年で東京や大阪を中心に街に急速に浸透してきた。スマホ一つで手軽に借りられる手軽さや「新しいモビリティ」として注目を集めているが、その裏側に潜む人事と政治・行政の結びつきを見れば、決して無邪気に歓迎できる話ではない。

特に問題なのは、元警視総監・樋口建史(ひぐち たけし)氏が同社の監査役に就任したという事実だ。樋口氏は2014年から2016年まで警視総監を務め、全国の警察組織の頂点に立って治安維持を担った人物である。その後は電力会社や公益法人の役員を歴任し、そして電動キックボードという新興産業の監査役として再登場した。単なる「再就職」と片付けられないのは、LUUPの事業がまさに警察庁が所管する道路交通法改正の恩恵で急拡大してきたからにほかならない。

2023年7月、道路交通法が改正され、16歳以上であれば免許不要、最高速度20km/hという「特定小型原動機付自転車」という新カテゴリーが新設された。これはLUUPが展開する電動キックボードに合わせて作られた制度だといっても過言ではなく、安全基準や運用ルールはすべて警察庁の裁量に委ねられている。ここで警察トップ経験者が経営側に座っているとなれば、規制強化が抑え込まれ、むしろ拡大路線が優先されるのは自然な流れだろう。

この構図を見れば、LUUPの事例は「新しい産業における天下りの再生産」であることが理解できる。実際、警察庁からの天下りは過去にも数え切れないほど繰り返されてきた。

タクシー業界:全国ハイヤー・タクシー連合会や業界団体には歴代の警察庁OBが顧問や理事として再就職し、許認可を所管する警察と業界の結びつきが強く批判されてきた。

警備業界:ALSOK(綜合警備保障)、セコムなど大手警備会社の幹部に警察庁出身者が就任。警備業法を監督する警察と「規制される側」の企業が人事でつながり、実質的な癒着構造を形成してきた。

自動車・交通関連:交通安全協会や運転者講習団体にも多数の警察OBが天下り。免許更新時に徴収される講習料がOBの人件費に充てられる構造は「国民負担による天下り温存」と強く批判された。

パチンコ業界:警察庁が風俗営業法を所管する関係から、遊技機業界団体や企業に警察OBが再就職。パチンコ店への監督権限を盾にした「規制と業界」の持ちつ持たれつ関係は長年問題視されてきた。

その他公益法人:暴力団排除運動の関連団体や交通安全財団などにも警察OBが流れ込み、事実上の「警察利権」として温存されている。

つまり、LUUPと樋口元警視総監の関係は、こうした歴史の延長線上に位置づけられる。単なる偶然ではなく、警察庁が関与する規制産業に必ず警察OBが再就職し、事業拡大や規制緩和を有利に進める「定番パターン」が繰り返されているに過ぎないのだ。

現場の実態は深刻である。都内や大阪では深夜に歩道を暴走する利用者、放置された車両でベビーカーや高齢者が通行を妨げられるケースが増加。警視庁の発表によれば、2023年の電動キックボード関連事故件数は前年の約4倍に跳ね上がった。利用者の多くは免許を持たない若者であり、ヘルメットの着用率も極めて低い。にもかかわらず、規制強化の議論は進まず、自治体とLUUPとの連携協定は次々と結ばれ、シェア拠点は拡大を続けている。ここに「天下り人事の効果」が透けて見えるのは、決して穿ちすぎた見方ではない。

私は断言する。LUUPと樋口建史元警視総監の関係は、未来のモビリティ育成どころか、旧来型の天下り構造の焼き直しにすぎない。市民の安全を守るべき警察と、規制の恩恵を最大限に受ける企業が人事で結びつく構図は、民主主義国家の健全性を大きく損なう。過去のタクシー・警備・パチンコ・交通安全団体で繰り返された癒着と同じ轍を、私たちは再び踏もうとしているのだ。

電動キックボードという新しい移動手段自体に可能性はある。しかし、その普及を推し進める「舞台裏の力学」が、警察庁人脈と利権構造で彩られている以上、市民の命と安全は軽視され続ける。LUUPを取り巻くこの構図は、「誰のための交通政策なのか」「未来社会に必要なのは利権か安全か」という問いを私たちに突きつけている。

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