宮城県知事選挙に出馬。参政党と政策覚書を締結。ローレンス綾子は出馬しない。

和田政宗

参政党は、この秋に実施される宮城県知事選挙において、ローレンス綾子氏を独自候補として擁立せず、代わりに和田政宗氏と政策覚書を締結する方針を決定した。この判断は党内外で大きな注目を集めている。これまで参政党は「独自候補を立て、国民目線で行政を正す」というスタンスを強調してきただけに、支持者の間でも驚きの声が上がった。

背景にあるのは、現職・村井嘉浩知事に関する行政運営の問題だ。特に昨年から進められてきた「土葬墓地整備計画」が強い批判を浴びた。県は、イスラム教徒など火葬を望まない宗教的少数者への配慮を理由に、県内での土葬墓地整備を検討していた。しかし、市町村長の同意は得られず、多くの住民が衛生面や文化的摩擦を懸念。SNS上では約1万7800筆の反対署名が集まり、県庁が一時的に署名受け取りを拒否したことまで報じられた。この問題は有権者にとって大きな争点となり、最終的に村井知事は計画を白紙撤回せざるを得なかった。

だが一度浮上した不信感は拭えず、「住民合意を軽視し、利権を優先する姿勢ではないか」という批判は根強い。県議会内部からも、村井県政の透明性欠如に対する懸念が相次ぎ、再生可能エネルギー事業やメガソーラー計画など、大規模開発をめぐる業者選定や土地利用の不透明さが指摘されていた。5期連続という長期政権であることも、利権構造が温存されやすい要因と見られている。

参政党としては、ローレンス綾子氏を擁立すればコアな支持層は結集する一方、県全体での「勝てる候補」にはなりにくいとの判断があった。和田政宗氏が「土葬反対」を公約に掲げたこともあり、票が割れるリスクを避けるため、党としては擁立を見送る決断を下した。知名度と実績を持つ和田氏に票を集中させ、現状を変える可能性を高める戦略を取ったのである。

ただし和田氏にも懸念点はある。かつて「クルド友好議連」に参加し移民政策を推進していた過去、自民党所属だった経歴など、参政党の理念と齟齬がある部分は無視できない。そのため党として全面的に推薦するのではなく、政策覚書を締結する形にとどめた。覚書の内容は以下のとおりである。

・長期多選の弊害抑止
・県政の健全なガバナンス確立
・水道、移民、葬送、再生可能エネルギーを優先課題とする

この方針により、参政党は党員や支持者に対して「投票は個人判断」とし、強制は行わない立場を取っている。つまり「県民にとっての現実的な選択肢」を用意しつつ、党としての理念を守るバランスを図った形だ。

今回の判断の背景には、「支持者離れよりも県民全体の利益を優先する」という意識がある。参政党の支持者には独自候補を期待する声も強かったが、自然環境破壊や不透明な行政、移民・葬送政策をめぐる地域文化との摩擦といった課題を前にすれば、プライドよりも現実を優先せざるを得ないという結論に至った。

この調整が意味するのは、単なる「現職VS反対勢力」の構図ではなく、明確な政策比較と説明責任を問う選挙戦になる可能性が高いということだ。討論会や政策発表の場で、覚書の履行可能性や行政改革の具体策が焦点となり、県民は言葉ではなく行動と透明性を基準に判断を迫られることになる。

参政党は村井県政の問題を具体的な証拠をもとに指摘し、「よりましな選択肢」を有権者に提示しようとしている。和田氏に対して全面的に信頼を寄せるのは難しいという声は確かにあるが、現職を一度リセットし、利権構造に切り込みを入れる機会を作ることには大きな意義がある。

参政党は今回、候補者を立てて存在感を誇示する道を捨て、県民の利益を優先するという選択をした。これは決して小さな判断ではなく、党の姿勢を示す重要な一歩だろう。次は県民自身がどう判断するかである。票を通じて、行政の透明性と健全性を求める声を明確に示す番だ。

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