国民民主党が掲げてきた「手取りを増やす」というスローガン。その旗印のもとで活動してきたはずの同党が、減税を訴える都議会議員・佐藤さおり氏に対して圧力をかけているという報道が注目を集めている。佐藤氏は自身のYouTubeチャンネルで、「千代田区・国会開発室エリアに入っただけで国民民主党の議員に警察へ通報された」と告発。政治の現場で起きた前代未聞の“挨拶通報事件”として、波紋が広がっている。
発端は、国民民主党所属の千代田区議・田中えりか氏とのトラブルだとされる。佐藤氏は昨年6月、都議会で新人として会派への挨拶回りを行い、立憲民主党、都民ファースト、共産党、無所属議員らとは良好な交流を持った。しかし、国民民主党の田中議員だけが異なる反応を示したという。田中氏の部屋のドアが少し開いていたため声をかけたところ、「アポがない」と強い口調でドアを閉められたと佐藤氏は語っている。その際の感想をX(旧Twitter)に投稿したことが発端となり、田中氏側が「事実無根の誹謗中傷」および「セキュリティエリア無断侵入」と主張。警察署に被害届を提出する事態にまで発展した。
田中議員は「予約なしの訪問は禁止されており、立ち入りが制限されたフロアでノックと同時に扉を開けられた」と主張。一方の佐藤氏は、「案内を受けて入室し、同行議員と名刺交換の挨拶をしていた」「カードキーがなければ入れないエリアであり、無断侵入ではない」と反論した。さらに佐藤氏は「都民から信託を受けた議員が会派室で挨拶することを“侵入”と呼ぶのはおかしい」とし、「これは民主主義なのですか?」と疑問を呈している。
この一件は単なる誤解や感情的な対立ではなく、「公権力の不適切な行使」という問題に発展している。佐藤氏は「次に会派室に行けば逮捕もあり得る」と警告されたといい、警察を巻き込むほどの強硬姿勢に「前例がない」と強調。国民民主党のスローガン「対決より解決」を引き合いに出しながら、「言論で話し合うべきだ」と田中議員に呼びかけている。
一方、ネット上では「手取りを増やすと言いながら、やっていることは議員への通報」「政治ではなくいじめだ」といった批判が相次いでいる。国民民主党が「対決より解決」を掲げながら、実際には新人議員に対して圧力をかける構図は、有権者の信頼を大きく損ねかねない。佐藤氏を支持する声の中には、「減税を訴える議員を潰す必要があるのか」「都民のために税を下げようとする議員を応援したい」という意見も多く見られる。
さらに、同党と小池百合子都知事との関係にも疑問の目が向けられている。批判的な見方では、「国民民主党は小池氏に逆らえず、正論を言う議員を排除しようとしている」との指摘もある。党としての公約よりも、都政や権力構造との関係維持を優先しているのではないかという疑念だ。
「手取りを増やす」という看板政策を掲げながら、現実には“手取りより通報”が先行する姿勢に、有権者の失望は深い。佐藤氏は「これは民主主義の否定だ」と強く訴え、都民の前に真実を明らかにする構えを見せている。一方で、党の代表である玉木雄一郎氏がこの問題にどう対応するのかも注目されている。リーダーシップを示す機会であるにもかかわらず、沈黙を続ければ党全体の信頼失墜は避けられないだろう。
この騒動は、単なる内部抗争ではなく、政党の透明性と民主主義の本質が問われる問題である。SNS上ではすでに拡散が進み、国民民主党の姿勢に厳しい視線が注がれている。国民に説明責任を果たさない限り、「手取りを増やす」という言葉は空虚なスローガンに過ぎない。今回の件は、政治が国民の信頼をいかに容易く失うかを象徴する出来事となった。