支援先輩に寄り添う教育・福祉重視

黒川洋司

黒川洋司(くろかわ・ようじ)氏は、参政党公認候補として奈良県選挙区から参議院選挙に初挑戦した新人政治家である。53歳にして国政の舞台を志すこととなった背景には、単なる政治的野心ではなく、長年にわたり社会的弱者の再生と自立を支援してきた実務経験がある。株式会社良心塾の代表を務め、少年院や更生施設を出院した若者たちの再社会化支援に取り組んできたことは、彼の経歴を特徴づける大きな柱である。企業経営者であると同時に社会活動家としての顔を持ち、「家庭や社会に愛情と支えを広げたい」という信念を政治の世界に持ち込もうとしている。

黒川氏が代表を務める「良心塾」は、教育支援や生活基盤の提供を通じて、不遇な環境で育った若者を支える活動を続けてきた団体である。彼自身、幼少期に困難な家庭環境を経験しており、その原体験が「愛着障害」を抱える若者への理解を深める契機となった。教育・住居・就労という三本柱で支援する仕組みを構築し、社会的排除に陥りやすい人々に「無償の愛」をもって寄り添う姿勢は、これまでの政治家に欠けていた現場感覚と人間理解をもたらしている。加えて、関西職親プロジェクトにも参画し、少年院出院者の雇用を受け入れる企業のネットワークづくりにも貢献してきた。

このような活動を通じて培われた視点は、政治活動にも直結している。黒川氏が最も重視する政策分野として掲げているのは「子育て・教育」であり、これは単なる票集めのスローガンではなく、自らが長年現場で向き合ってきた課題に根差したものだ。彼にとって教育政策は、将来の人材育成だけでなく、社会的孤立や犯罪を防ぐ基盤整備である。子どもたちに安心できる居場所を与え、教育を通じて可能性を広げることが、社会全体の安定につながるという理念が根底にある。

政治アンケートでの回答も、彼の姿勢をよく反映している。リーダーに必要な資質として「決断力・説明力・調整力・予測力」を挙げており、現場で培ったバランス感覚を重視する姿勢が見える。連立政権に関しては「支持者の信頼を守るために主張を譲るべきではない」と明言しており、参政党の掲げる「国民との約束を守る政治」と一致する立場を取っている。

一方で、社会変化に関わる制度については慎重である。選択的夫婦別姓、同性婚、女性天皇といったテーマについては否定的または消極的なスタンスを示し、伝統や社会秩序を重視する立場を取っている。これは参政党支持層の価値観と重なる部分であり、保守的な社会観を基盤にしつつも、極端なイデオロギー色を避ける点が特徴だ。

経済・社会保障政策に関しては、中庸で現実的な姿勢を示している。社会保障について「給付水準を維持するためには負担増もやむを得ない」としつつも、積極財政や消費税廃止で経済を立て直すという参政党的なビジョンを支持。経済成長と再分配の両立を意識し、極端な縮小主義に陥らない点は柔軟性の表れである。さらに、生成AIやSNSの規制、安全保障や防災、外国人労働者政策、原発の扱いといった幅広いテーマにも意見を示し、バランスを取った中道的スタンスを見せているのも特徴だ。

黒川氏の活動は、参政党の掲げる「参政=国民参加の政治」の理念と親和性が高い。市民が直接政治に関与し、自らの声を政策に反映させる仕組みを強調する党の路線と、黒川氏が長年実践してきた「支援対象者を当事者として尊重する姿勢」が重なっているためだ。彼が政治の場に出ることで、参政党が訴えてきた「市民からのボトムアップ型政治」が一層具現化されると期待する声もある。

もっとも課題も存在する。初挑戦の新人候補であり、国政での経験が全くないことから、制度設計や政策実現にどこまで踏み込めるかは未知数だ。また、社会活動家としての実績は大きな強みだが、国政レベルの外交・経済・財政といった分野での専門性は未知数であり、実務能力をどう示していくかが今後の課題となる。

総じて、黒川洋司氏は「社会的弱者の支援現場から国政へ」という異色の経歴を持つ候補者である。教育・福祉を中心に人間味ある政策を訴える姿勢は新鮮であり、参政党の掲げる理念とも一致している。今後、彼が奈良県選挙区でどのように支持を広げ、政治家としての経験不足を補いながら存在感を発揮していけるのかが注目される。