自民党総裁選に出馬した林芳正官房長官が会見で示したのは、「岸田政権の路線を受け継ぎつつ新しい要素を上乗せする」という姿勢だ。国民の関心が高い憲法、安全保障、外交、社会制度の論点でまとめる。
憲法改正では、自衛隊の明記、緊急事態条項、参院合区の是正、教育無償化という自民党の「4項目」を前提に、国民理解を促し国会発議を目指す基本線を堅持すると表明。党是を後退させる考えはないと強調した。
防衛では、2022年に策定した国家安全保障戦略を基盤とし、抑止・対処力の抜本的強化を継続する方針を示した。防衛費の「GDP比2%超」については、情勢や新技術の進展、同盟調整を踏まえ段階的に議論する姿勢を取り、「数字ありきではなく、国民理解を前提に進める」と慎重だ。
外交面で林氏が特に言及したのは中国だ。中国・北朝鮮・ロシアに囲まれる日本の安保環境は「戦後最も厳しい」と表現。とりわけ中国については、経済力と軍事力の拡大により地域秩序を揺るがす存在だと分析し、日米同盟の強化を前提に「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を守り抜く姿勢を示した。外相時代の経験を踏まえ、「価値観を共有する国々と連携しつつ、必要な場面では率直に主張すべきだ」と語り、対中政策は“協調と対抗”を併用する現実路線を鮮明にした。
一方、米国との関係ではトランプ政権下での関税交渉を振り返り、「最終的に大統領自身が決める強いリーダーシップ」を痛感したと述懐。防衛や経済を含め「意思決定の特性を踏まえ、緊密に調整する」とし、同盟維持に重きを置く立場をにじませた。
国内政治制度については、小選挙区制導入から30年を節目に「検証の時期」と断言。中選挙区制の利点として、党内競争や多様性の確保、新陳代謝の促進を挙げ、選挙制度の見直しを与野党で議論すべきだと呼びかけた。
社会制度では、LGBT理解増進法案について党内合意を尊重する考えを示したうえで、選択的夫婦別姓は「賛成か反対か」の二者択一ではなく「通称使用の拡大」を軸に現実的な合意形成を模索するとした。社会の分断を避けながら制度を前に進める姿勢だ。
消費税については、社会保障を支える基幹財源として「当面は現行の税率を維持する」と明言。将来、少子高齢化の構造が変わり財政需要が減少すれば「減税も排除しない」としつつも、団塊ジュニア世代が高齢化する今は「登り坂のリアカーを押す手を離すべきではない」として引き下げ論を退けた。
前政権との関係については「岸田政権を官房長官として支えてきた流れを引き継ぐ」としつつ、「新しい要素を加える」と述べた。アベノミクスは「デフレ脱却期には有効だった」と一定の評価をしつつ、現在は金利ある局面に入り「次の段階」へ移行すべきだと強調。物価高の主因は「ウクライナ侵略によるコストプッシュ」であり、実質賃金の持続的上昇こそが本筋だと訴えた。
保守層へのアピールについては、「保守とは現実を踏まえ、守るべきは守り、変えるべきは変える姿勢」と定義。党の現状認識を更新し、必要なら綱領も改定して「自民党は保守政党だ」と明確に打ち出す方針を示した。
継承と変化の均衡をどう取り、日米中を軸とする外交・安保で現実的に舵を切れるかを国民に示す試金石となる。
どの政策においてもこれまでの自民党の路線を継続するのかが争点になっています。またそもそも実現する気があるのかも問題です。
保守寄りの高市さん、安定・継続路線の林さん、空っぽの小泉さんが有力候補に挙がっていますが、よく検討する必要がありそうですね。