神戸市が、中国製の学習用タブレットに対して支出していた約140億円の税金投入を打ち切る方針を正式に決定した。これまで神戸市の小中学校では、中国レノボ社製のタブレットを使用してきたが、セキュリティ面や品質面で多くの問題が指摘されていた。市会議員の上畠のりひろ氏は、この件を長期間にわたり議会で追及してきた人物である。上畠氏は「故障が多発し、端末が重く使いづらい。さらに情報漏えいリスクを抱えた中国製を子どもたちに使わせるのはおかしい」と強く主張してきた。当初、教育委員会は「WTO(世界貿易機関)の国際ルールにより、特定国製品の排除は難しい」と説明していたが、上畠氏は「仕様書を工夫すれば中国製を避ける設計は可能」と反論した。その結果、神戸市は次回のリース更新時にレノボを廃止し、Apple社のiPadを導入することを決定した。これにより、機器の軽量化、操作性の向上、セキュリティ強化が一気に進む見通しであり、教育現場からは「ようやく現実的な端末になる」と安堵の声も上がっている。
神戸市はもともと中国との関係が深い都市である。中国にとって最初の友好都市が神戸市であり、長年にわたり経済・人的交流を続けてきた。しかし、その関係が「過剰な依存」となり、市の一部政策や取引が中国企業に偏る傾向が指摘されてきた。上畠氏はこの点を繰り返し問題視し、過去には学校給食での中国産食材の排除、上海事務所の撤退、武漢市との覚書の失効など、対中依存の是正を次々に実現してきた。今回のタブレット問題もその流れの延長線上にある。教育現場という最も基礎的な領域で、中国製デバイスが使われていたことは象徴的であり、情報管理や国家安全保障の観点から見ても、外国製(特に中国企業製)の端末が教育現場に大量導入されている現状には大きな疑問が残る。
神戸市のこの決定は、単なる教育機材の更新にとどまらない。「地方自治体が国家安全保障を意識し始めた」という点で極めて重要な意味を持つ。これまで外交や防衛といった分野は国の専権事項とされ、自治体レベルでは無関係と考えられてきた。しかし実際には、教育、IT、調達、人材交流といった分野は、国家安全保障と密接に結びついている。教育端末を通じて扱われる児童データや学習履歴は、AI企業にとって非常に価値が高い。もし中国企業のシステムを通じてそれらが処理されるなら、情報管理のリスクは無視できない。神戸市の対応は、こうした「見えない安全保障リスク」に地方自治体として踏み込んだものと言える。140億円という巨額契約の見直しは財政的にも象徴的であり、“脱中国依存”が単なるスローガンではなく、地方レベルで実務的に実行され始めたことを示している。
ただし、Apple製品の導入で全てが解決するわけではない。コスト面での負担、管理体制の再構築、アプリケーションの統一など、運用上の課題は依然として残る。それでも今回の決定は、「安さ」や「調達慣例」に流されず、リスクを踏まえた政策判断を下したという点で明確に評価できる。神戸市の取り組みは、他の自治体にとっても一つのモデルケースとなり、今後は教育と安全保障をどのように両立させるかが、地方行政の新たな課題として問われていくことになる。